きつね小路
著者:鏡 政子
(「民主文学館」:
 編集・発行 日本民主主義文学会  発売 光陽出版社)
四六判上製本 頁数:192頁 定価(本体1238円+税)
発行日:2011年3月28日
ISBN978-4-87662-524-6

空襲、疎開、敗戦……戦争を生きた少女は、やがて命の尊さ、平和の重みにかさねて歩いて行く。あの日があるから、いまの私がある……六編の小説世界が一つにとけ合う。

川面に月が映ってきらきらと流れて行く。風が冷たくなってきた。涙も乾いてきて、京子は、後ろ足で砂をかけるようにして家を出てきたことを反省した。橋の上を立ち去り、そこから何処を通ったのか、気がつくと家の近くにいた。冷たくなった手で玄関の戸を開けようとした時、戸は中から開いてそこに父が立っていた。(「きつね小路」より)